2019-05-21

Once Upon a Time


カリフォルニア州のBlack Mountainという岩場にある「Once Upon a Time」という課題の話。それこそ遠い昔々のお話で、細かい部分は既に記憶が薄れてしまっていますが、こういう暑苦しいクライミングをしている人が最近少なくなってる気がするし、偶然ちょっと振り返る機会があったので書いてみます。



 リスクが大きい課題というか、いわゆる「怖い課題」というのは、世の中にはたくさんある。しかし、この課題くらい極端なのは、世界でもなかなか例が無いと思う。ムーヴ自体の強度は高くないが、岩の高さに加え、下地がとてつもなく傾斜しており、しかもその先は深いクレバスになっていて、一見して落ちたら死んじゃうようにも見える。ただ、まるでこの世のものとは思えない、美しすぎるその造形。トライする気満々の私に「やめとけ」「海外遠征でやるのは危険すぎる」という忠告があるのは、当然ながら理解出来る。その事では別に腹も立たなかったし、キチンと弁解できたと思う。しかし、「あんな課題、怖いだけでやる価値がない」その言葉に、当時の自分はとても腹を立ててしまったのだった。

補足的に自分なりの考えをまとめると、自然の岩と向き合う上で、怖さやリスクというものは、当然付いて回るもの。それらは課題の難しさの一部であり、そのような課題は「簡単だけど怖い」ではなく「怖いから難しい」と捉えています。自分から進んでリスクを求めているわけではないが、そういったプレッシャーの中でも、他の課題と同じようにまずはトライしてみて、状況を分析しながら課題を克服するアウトドアならではのクライミングがしたい。もちろん、登れずに諦める場合も多々あるのだが、自分のモットーとしてまずは岩に貴賎なし。なのです。

 別にクライマーとして云々とまでは言わない、でも、岩の楽しみ方は人それぞれであるならば・・・そういう思いは今も変わっていないが、当時のメンバーそれぞれの心境や立場を冷静に振り返ってみると、激しく主張して衝突してしまった自分も少々大人気なかったかなぁと思うわけです。と、とにかくそんなわけで、しばし岩場には気まずい雰囲気が流れたのだが、結局はありがたい事に他のメンバーのフォローがあり、その日は自分を含め3人がトライして完登、さらに後日、トライを悩んでいた1人が頑張りを見せ無事に完登し、心に残るクライミングができて満足しながら帰国する事ができました。
ですが、話はそれで終わらず。。

 2年後、我々は再びBlack Mountainの地で、同じOnce Upon a Timeの前に集まっていた。今回は、前回私を阻止しようとしたメンバーの2人がOnceを登ることが旅のメイン。彼らもやはりクライマーだった。2年ものあいだ、ずっと悶々とした屈辱と敗北感に耐えてきたのだろう。その時が近づくにつれて、少しづつ場は緊張感に包まれていった。私はトライには参加せず、カメラマンに徹する事に決めていた。もし自分が再登するならば、よりクリーンなスタイルを求めノーマット&ノースポッターでトライする事になる。それをやる事によって、前回挑むことなく敗退した彼らに余計なプレッシャーを与えたくなかったし、彼らの初完登の喜びを僅かでも薄れさせたくなかった。
 新たに旅に加わった3人を含めた5人全員が、全力で岩に向き合い、葛藤し、涙を流し、それでも励まし合い、次々と完登していった。その場にいた皆で抱き合って喜び合うところを私は一心にカメラに収めた。途中ちょっと泣いてたかもしれない。そして、この素晴らしい課題に挑戦した彼らを心の中で「お前らカッコイイな!」と称えたのだった。

最後に2回の遠征の主軸メンバーが言った名言

Once Upon a Time (むかしむかし) で始まる物語は、
Happy Ever After (めでたしめでたし) で幕を閉じた。

は、今でも強く心に残っています。

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