2021-04-14

重箱岩のうな重

 


春になったけどどこにも行けないので、相変わらず地元でボルダー開拓。この辺では珍しい石灰岩のボルダーにいくつかラインを引いたのだけれど、それにまつわる思う事をなんとなく。

まず、河原の非常に目立つ場所にあるボルダーなので、当然すでに誰かが登っていると思い、最初は登る事をためらった。インターネットや、昔からこの周辺に通っていたクライマーに聞いて調べても、その岩についての情報は一切出てこなかった。二ヶ月ほど指をくわえて見ていたが、埒が明かないので、とりあえず軽くさわってみる事に。

岩自体のスケールはさほどでないが、高さ3.5mはあり、140°くらいに被っていて、とても登攀意欲をそそられる。リップは苔だらけでホールドと思われる凹凸にも粉が吹いており、ボルダリングらしき跡は見受けられなかった。おそらく、登られていたとしても、かなり昔だろうなという印象。顕著な凹凸がたくさんあるので、どのようにでもラインが引けるだろうと踏んでいたが、いざ取り付いてみると、傾斜によってどれも意外と厳しい。なので初日は、一番登りやすい左カンテ沿いにあるガバと、傾斜面にあるホールドを繋いで直登するラインを掃除して登った。グレードとしては5級くらいで少し物足りないが、一番自然なラインだし、気持ちよく登れたのでまぁいいかという感じで、名前を付ける事もなくその場を去った。

二回目に来た時は時間がなくトライこそしなかったが、前回は見いだせなかった傾斜面からの真っ向勝負なスタートと、二段目の、この岩の真のリップへのラインを発見できた。俄然やる気が出て、その翌週には早速トライを開始した。まずは抜け口のリップを掃除してみると、苔と一緒に岩がポロっと剥がれてくる。幸いにして欠けは収まり、安定したリップが出てきたのでホッとした。次に、普段はやらない脚立を使ってのホールド磨きと、欠けないかどうかの確認をした。ここでまた過去の事を想像してみる。悪い・・・マットもなかった時代のクライマーが果たしてこのラインをボルダリングで登るだろうか?

ムーヴを分割してトライしてみて、最後の抜け以外はすぐに解決した。まず初手が核心、その後2級くらいのムーヴが7手、そこから2~3手の初段というイメージ。なかなかの大作だが、またしても葛藤が生じる。スタートの体制が不自然なほど窮屈で気持ち悪く、初手取りが思いのほか強度が高い。しかも下にある大きな岩が邪魔なので、ムーヴを起こすと必ずと言って良いほど岩に触れてしまうのだ。昨今は、登攀中に少し地面に擦っただけで荷重しなくてもクレームが入るような理解しがたい風潮がある。せっかく充実した内容がある課題なのに、ムーヴを成功させるよりも、岩に触れないようにするのが核心だなんて、どうも納得がいかず、結局はその一手を省くことにした。


そうして出来上がったのが赤のライン。下の大きな岩に腰掛け、傾斜面のカチ二つでスタート。一段目のリップ下にあるスローパーをトラバースして二段目のリップへ繋ぐラインです。繋げてのトライには二日を要しました。せっかくの楽しみを奪ってしまうのでムーヴの解説は控えるが、控えめに言って最高。自分のムーヴではマントルまで12手、最後の方が核心なのでかなりヨレました。課題名は「うな重」としておきます。グレードは毎度のことながらよく分からないけど、初段か二段のどちらかという気がします。ちなみに青のラインは初日に登ったカンテの課題で、こちらは「なまず丼」としておきます。また、この二本をベースとして、自分なりに色々なバリエーションを楽しむことも出来ると思います。そこは後のクライマーへの配慮として、あえて設定しませんでした。ちなみに、登った後に再度情報を集めようと試みましたが、やはり有力なものは何も得られませんでした。もし、この岩の事をご存じの方がいれば、ご一報頂けるとありがたいです。

最後に、今回、ここまで詳しく書いた理由は、自分自身がこの岩に関する情報を得られず、歯がゆい思いをした事にあります。公開されいてる岩の新ライン、または、明らかに誰かが登っていそうなボルダーを発見した場合には、気兼ねなくトライするために、まずオリジナルラインの初登者、またはそこで登っていそうなクライマーにコンタクトをとり、情報を得てからトライする事がマナーかなと個人的には思っています。しかし経験上、大概は、探しても情報がない、聞いても曖昧な答えしか返って来ない事が多いのが実情であります。なかには「覚えてないけど登れるところは全部登ってる」などと、夢を打ち砕くような残酷な事を平気で言った人も。大昔、リードの練習としてボルダリングをしていた方々にとっては、それで良かったのかもしれません。しかし、今は、これからは、公に発表まではしなくても、キチンと記録を残しておいてあげるのが、後のクライマーへの優しさなのかなと感じる今日この頃。一方、先述した通り、登攀中に地面や他の岩に触れた触れないで揉めたり、既成課題に一手足したり引いたりして「新課題初登!」なんて憚るのも、何だか重箱の隅で固まった米粒のような印象を受ける今日この頃であります。



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